教育新聞「円卓」コラムに掲載されました。

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「むがす、むがす、こんなことがあったとさ・・・」
布団に入ると、祖母のむかし話が始まる。その話には、祖母の今は亡き知人や祖先がよく登場した。話の舞台も、田んぼ、裏山、小川、お墓など、子どもだった私の行動範囲内の場所がほとんどだった。もともとは古くから伝わるむかし話だったのかもしれないが、おそらく祖母の創作がかなり加えられていたように思う。東北の農村で生まれ育った私には、祖母のむかし話と豊かな自然はとても身近な存在だった。
むかし話の主な題材は、人の営み、人と自然との関わりで、その大半が怖い話だった。昔の農村の夜はとても暗かったし、小心者だったので、私は恐怖で固まってしまう。そんな私を前に、祖母は決まって「だから気をつけろ」「だからそこには近づくの言葉で話を結んだ。地域社会の中で生きるための掟を教えようとしていたのだろうか・・・。
むかし話とふるさとの自然は、私の五感をおおいに刺激したに違いない。私が数多ある中から、自分の作品のテーマとして選んだものの原点も、結局、そこにあった。「君は農村に行くと、元気な顔になって戻ってくるね。またどこかで、ふるさとを見つけたのかい?」と言われたことがある。確かに時々、かつてのふるさとの姿を探している自分に気づくことがある。
昼時、ラジオから古関裕而氏作曲のNHK「ひるのいこい」のテーマソングが流れると、仕事中でもつい耳をそばだててしまう。全国の「ふるさと通信員」(現「聴取者」)からの便りを聞くと、子ども時代のさまざまなシーンが脳裏に浮かんでくる。農村に行かなくても、ふるさとの色や音、匂い、感触などの記憶が、まざまざと蘇ってくるのだ。それは、祖母のむかし話を聴きながら想像で頭をいっぱいにしていたときの状況に少し似ているかもしれない。
お便りの朗読が終わると、「ばーさま」の声が聞こえてくるような気がする・・・「自然を甘くみるな」「掟は破るな」。
(岡本央)
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by sanaka-okamoto | 2015-03-11 13:10
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